行李(=こうり)とは、柳(やなぎ)や竹で編(あ)んだ箱形(はこがた)の入れ物のことです。昔はおもに旅行や引っ越しの時に、荷物を入れて運搬(うんぱん)するのに用いられました。今でも衣類の保管などに使われています。
やなぎごうりの材料となるのは、コリヤナギ(=ヤナギ科の落葉低木)です。
コリヤナギの樹皮をはいで、樹液を水洗いで落としたあと、天日で乾燥(かんそう)させた白柳(しろ)と呼ばれる柳を使って作られています。
やなぎごうりは、柳の持つ特性である水に浸(ひた)すと柔(やわ)らなくなり曲げ易(やす)く、また乾(かわ)けば堅(かた)くなるという性質を利用して、麻糸(あさいと)で編み上げられ、その後縁掛(ふちがけ)をし、角を布や皮などで補強して作られています。
写真のやなぎごうりは、昔商人たちが、細長い大福帳[だいふくちょう=大帳に福運を願って「福」の字を加えたもので、おもに商家で使われ、売ったり買ったりしたことを、記録したり計算したりする帳簿(ちょうぼ)のこと。]や携帯用の小さな算盤(そろばん)などを入れて持ち歩き仕事をしていました。 今ではあまり見ることもできなくなりました。
柳行李の歴史はとても古く、約1200年前には作られていました。ならの正倉院御物(しょうそういんぎょぶつ)には、現在とほとんど変わらない形の行李が残されているそうです。この頃は、文箱・衣装入れ・小物入れとしてごく一部の上層階級の人々だけに使われていました。
江戸時代になると、大名(だいみょう)から町人まで広く使われるようになりました。
行李の種類も、鎧櫃(よろいびつ),陣笠(じんがさ)など→武士
小間物行李(=小間物を行商する時),薬屋行李(=越中富山の薬売りが有名),帖行李,など→商人や一般の人々
裃(かみしも)行李,長尺(=衣類の保管)など、目的に応じた形ものが作られました。行李は、大名の参勤交代(さんきんこうたい),商人の商(あきな)い,庶民のお伊勢参り(おいせまいり)などの時に旅行道具入れとして使われました。
明治時代には、手にさげて歩くこうりかばんとして、大正時代にはバスケットとして、昭和時代には、戦時中は軍用(ぐんよう)行李や飯(めし)行李、戦後は買物篭(かいものかご)としておもにたくさん作られ、その他にもいろいろな種類の物が作られて、人々の生活の中に入り込んで現在に至ります。
この手にさげて持ち歩くこうりかばんは、明治14年に現在の兵庫県豊岡市に誕生したと言われています。
中に入れた荷物が傷ついたり痛んだりしないように、身にも蓋(ふた)にも、内側に和紙が貼られています。
持ってみると、とても軽いです。スーツケースやトランクと形がよく似ていて、大きさはスーツケースほどの大きさです。
驚くことは、何十年前に作られたものかわかりませんが、まだまだ収納の役割は果たせます。それほど丈夫です。
・丈夫でしかも軽いこと。(落としても壊れにくく。旅行や引っ越しに重宝されました。) |
・収納量を調節できること。 |
・適度に水分を吸収したり保持したりする。[この性質をうまく利用したのが、ご飯やおにぎりを入れた飯行李です。ごはんが悪くなるのを防いで、美味しさを保ってくれます。驚いたことに、水分を吸収した行李は膨張することで、お茶漬けを食べることや、つるべ代わりに水を汲むこともできるそうです。また薬売りの商いでは、薬を湿気から守り、薬の変質を防いでくれました。江戸時代の飛脚(ひきゃく=手紙・金銭・小荷物などを運んだ人)などは依頼された大切な品物を雨などから守るために用いました。]
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・衣類を守る。(湿気によるカビや、柳の持つ成分により虫喰いから大切な衣類を守りしか大容量を収納できます。)
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・汚れたら洗え、風合いも良い。(古くなったり汚れたら洗うことができ、乾かして使える丈夫さを持ちます。また柳の丸みがなんとも言えない手触りのよさを感じさせてくれます。) |
など、やはり先人たちは、柳の持つ特性を知り尽くして、日常生活の様々なところで使用していました。植物の持つ素晴らしい特性とそれを使う人間の知恵の素晴らしさをあらためて感じました。
[作成:2004.6.30]