有機電子論の数学的裏付けとその限界 ○細矢 治夫 ほそや はるお お茶大理 Robinson や Ingold が1920年代に提出したいわゆる有機電子論を使うと、不 飽和共役系の中のπ電子の移動の範囲と度合いがかなり正しく予測できる。簡 単な分子軌道法の計算もこれらの結果を多くの場合に再現することが知られて いる。従って現代の有機化学者も、反応の予想や反応機構の説明にこれを作業 仮説として活用している。著者は最近、Coulsonと Longuet- Higgins の摂動 論にグラフ理論を組合せることによって、この有機電子論の数学的な裏付けに 成功した(JMS,461-462,473(1999))。また、福井の superdelocalizability やCoulson 等の分極率等が、簡単な共役系で発散することも見出した (Theor.Chem.Acc.,102,293(1999))。更に、大きなベンゼン系炭化水素にお いて、異常なトンネル電子移動の起こることも見出した。これらの最近の発見 と現在解析を進めていることをもとに、表記の問題についての話題をいくつか 提供し、討論を行いたい。