植物を利用した暮らし

昔から人々は暮らしの中に、身近にある植物や、山野に自生する豊富な植物の持つ いろいろな特質をうまく取り入れて利用し、より便利に暮らしてきました。

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かきしぶ(=柿渋)

柿渋とは、渋柿のまだ青い果実を砕(くだ)いてしぼりとった、こげ茶色の液のことです。(=柿渋の主成分であるタンニンの一番多く含まれる時期に採取し、また自然発酵(しぜんはっこう)により、長く熟成(じゅくせい)させるほどタンニンが安定すると言われています。)独特のくさいにおいがありますが、乾けばくさいにおいも自然にぬけていきます。

では、昔の暮らしの中で、どのように柿渋が使われてきたのでしょう。

柿渋には、
  防水(ぼうすい)効果
  防腐(ぼうふ)効果
  補強(ほきょう)効果
  防虫(ぼうちゅう)効果
  塗料(とりょう)
  染色剤(せんしょくざい)

などとしてのすぐれたよい点があり、昔から人々の暮らしの知恵として、

 ・ 紙 [和紙、蛇の目傘(=じゃのめがさ)、新聞紙、ボール紙などに用い、せんいを固めて強くして、水をはじいて、せんいがくさるのを防ぐ]
 ・ 木 [木器や椀物(わんもの)、風呂、水桶(=みずおけ)、建材(天井板など)などに用い、水をはじき木がくさるのを防ぎ、長持ちさせる。また防虫のため、木目をいかした塗料として使われた。]
 ・ 竹
 ・ 布(=せんいを固めて強くして、水をはじいて、せんいがくさるのを防ぐ)
 ・ 魚網(=くさるのを防ぎ、長持ちさせる)

などの生活道具に塗られて、使われて来ました。

柿渋は漆(うるし)とともに、日本において古くから自然塗料(=有害な物質を発しない塗料)として使われてきました。最近よく耳にする「シックハウス症候群(=空気汚染による化学物質過敏症(かがくぶっしつかびんしょう)で、目やのどが痛んだり、息苦しく感じたりなどの症状があらわれます)」は、おもに建材(けんざい)などの接着剤に含まれるホルムアルデヒドや家具などの塗装(とそう)に含まれるトルエンやキシレンなどの化学物質が大きな原因だと言われています。そこで最近は、特に柿渋が害のない塗料として注目されているそうです。


削(けず)り花

削り花とは、米沢市笹野地区に伝えられる笹野一刀彫によるものの一つです。

この地方は、冬は一面、深い雪に覆(おお)われます。そのために昔は、日頃 神仏に供(そな)える花が、冬期間不足しました。

そこで人々は、山野に自生する木を用い、笹野一刀彫(ささのいっとうぼり)の技法(ぎほう)により作り出された、削り花と呼ばれる造花(ぞうか)を買い求(もと)めて、お正月や春彼岸(はるひがん)などに、好(この)んで神仏(しんぶつ)に供花してきました。今でも続いているこの地方特有の習慣の一つです。

笹野一刀彫とは、上杉(うえすぎ)藩政(はんせい)時代から伝えられる削りかけ玩具(がんぐ)の正統を継ぐ郷土(きょうど)民芸(みんげい)玩具です。

その発祥(はっしょう)には、さまざまな説(せつ)がありますが、約1100年前に坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が、笹野千手観音(せんじゅかんのん)を開基(かいき)した時の信仰(しんこう)玩具と言われています。

一刀彫の技法が、アイヌの

イナウ【=イナウとは、アイヌ語で、アイヌの宗教儀礼(しゅうきょうぎれい)に用いる木製(もくせい)の幣帛。(=へいはく。神前(しんぜん)に奉献(ほうけん)するものの総称(そうしょう)。)

皮を取り去った柳(やなぎ)などの小枝を削りかけの状態にしたもので、捧(ささ)げる神によって、いろいろな形がある。】

であるところから、先住民族(せんじゅうみんぞく)からその技法(ぎほう)を受(う)け継(つ)いできたものとみられるそうです。

アイヌの神事(しんじ)のイナウと同じように、今でも、笹野の削り花が、お正月やお彼岸(ひがん)に神仏(しんぶつ)にお供(そなえ)え花として供えられています。このことが発祥を裏付(うらづ)けるといわれています。

上杉藩中興の祖(うえすぎはんちゅうこうのそ)、九代鷹山公(ようざんこう)が、農家の冬季(とうき)副業(ふくぎょう)として、奨励(しょうれい)してから盛んになりました。 削り花、蘇民将来【=そみんしょうらい=疫病(えきびょう)よけの護符(ごふ)の名】、恵比寿大黒(えびす だいこく)がもっとも古く、鷹(たか)を彫ったオタカポッポが広く普及し、十二支(じゅうにし)を形どったものなど数多く彫られています。

材料は、山野に自生する、

コシアブラ【ウコギ科の落葉高木。名前の由来(ゆらい)は、昔この木から樹脂(じゅし)をとり、これを濾(こ)して漆(うるし)のような塗料(とりょう)に用いた。若芽は食用にもなる。材質(ざいしつ)は、緻密(ちみつ)で軽く、 削りやすく、光沢(こうたく)があって、美しいのが特徴(とくちょう)です。】の木や、

サワグルミ(クルミ科の落葉高木)の木を乾燥させたものです。

彫(ほ)りの道具は、「サルキリ」「チヂレ」と呼ばれる独特(どくとく)の刃物(はもの)が使われます。薄(うす)く削り上げられ、巻き上げられた一刀彫りの、素朴で、意匠的で、味わい深い作風(さくふう)が、長い間、人々に好まれ続ける理由だと思います。

笹野観音まつりが、毎年1月17日に行われ、境内と照陽寺において、削り花やオタカポッポや干支の置物などの笹野一刀彫りが売られ、それらの縁起物(えんぎもの)を買い求める人々で、とても賑(にぎ)わいます。


つる細工

あけび、ふじ、ぶどう、またたび などのつるを、巧(たく)みに編(あ)んで、日用品を作り暮らしの中で使われています。


アケビ細工

マタタビ細工

マタタビ(サルナシ科、つる性の落葉木。雌木、雄木があり、若芽を食用とし、実を薬用とする。猫が特に好む。日本全国に分布するが、山形県内でマタタビと称するものには、ミヤママタタビとマタタビの2種類がある。)

マタタビ細工は、西置賜郡飯豊町中津川地区に今なお伝わっています。マタタビは細工がしやすく、皮をむくと純白で、身近にあり、毎年つるが同じ木からとれるなどの利点から、
 ・はけご(腰かご)
 ・米上ざる
 ・なた袋
 ・といし(=砥石)袋

などの日常の生活用品を作って、利用してきました。マタタビのつるを水に漬けて皮をむき、四つ割りにし、表面の緑の部分と中の芯を除(のぞ)いて平らにし、同じ幅にそろえた材料を二本ずつ交差(こうさ)して、波形(なみがた)に編んで作られています。


とくさ(=木賊)

子供が鉛筆の芯(しん)をけずるのに使いました。また仏具(ぶつぐ)を磨(みが)き手入れするのにも使われました。


ドクダミ(=十薬=じゅうやくとも言う)


・防虫 として

現在、米沢市内では下水道工事が進められているところですが、トイレの汲み取りを利用している時には、便槽の中にとくだみを5、6本入れておくと、ハエがわきにくいということを、昔の人は経験で知っていました。

・薬用(やくよう)植物 として

人家付近から山地までの湿った樹林下に広く生えるため、昔から民間薬(みんかんやく)として人々に利用されてきました。 ドクダミに触(ふ)れると独特(どくとく)の臭気(しゅうき=くさいにおい)がありますが、このにおいの中には抗菌作用(こうきんさよう=さいきんのはんしょくをおさえる)があり、カビ・水虫・たむし・ぶどう状球菌などに効力(こうりょく)があると言われてます。 また、生のまますりつぶして、おでき・にきびやただれ・痔(じ)・カミソリまけなどに用います。 また、全草を乾燥したものを煎(せん)じて飲むことにより、かぜ・蓄のう症・高血圧・夏バテ・利尿・便秘などの薬として用いられてきました。さまざまな症状に効くということから、十薬という名のおこりがあるとも言われています。

どくだみ茶 と 乾燥させたドクダミ


みかんの皮

入浴剤=食べた後のみかんの皮は捨てずに干しておき、ガーゼなどで作った布袋に入れて、お風呂に入れて、その移り香を楽しみました。


ヨモギ(=蓬)

・防虫 として

成長したよもぎを採集して干し、それを囲炉裏(いろり)などでいぶして、現在の蚊取り線香の代用品として虫退治に使いました。その名のおこりの一つには生育力が旺盛(おうせい)でよく萌(も)えいづるからとも言われています。

・もぐさ として

葉を干して、臼でついて粉末にし、葉裏の白い綿毛をとり、お灸のもぐさ(=灸を据える際に燃やす材料)にしてきました。その名のおこりの一つには、よく燃える草だからだとも言われています。

・端午の節句 に

5月5日の端午の節句に邪気(=じゃき)を払(=はら)うために、菖蒲(=ショウブ)とともにヨモギも軒(のき)に飾り、屋根の上に上げてから、風呂に入れる習慣があります。ショウブは芳香(ほうこう)があり、ヨモギも特有の香りがあります。